小さな美のポケット 第30話「美術館の楽しみ」

2018.11.10 Saturday 20:30
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    「小さな美のポケット」第30話(村上新聞連載エッセイ)が、先週の日曜日に掲載されました。


    今回のテーマは、「美術館の楽しみ」。
    数ある美術館の中で、どこを紹介しようかと迷ったあげく、今回話のタネにしたのは、東京品川にある「原美術館」と、信州の「美ヶ原高原美術館」です。


    最近の「芸術の秋」は、展覧会で忙しく、ゆっくり美術館巡りができないという、なんとも矛盾した現状。父と母の付き添いで、週に一度は病院巡り・・・どっぷりと「日常の垢」にまみれているこの頃です。(笑)

     

    **********(記事全文)************

     

    第三十話「美術館の楽しみ」

     

    自然が豊かで人情の厚い田舎は、暮らすにはほんとうに良いところですが、ぼくにとって、ひとつだけ都会暮らしがうらやましいと思うのは、近くに美術館があり、いつでもぶらりと出て、美術に親しめることです。時代の最先端を行く現代美術、美の巨匠たちの回顧展、そして、興味深いテーマで切り取られた企画展など、美術雑誌の展覧会案内には、見てみたい美術展がいくつも並んでいます。


    でも、ぼくが美術館に行きたい理由は、単に展示されているものを見たいだけではありません。一つ一つの作品が置かれる空間の美しさ、場の緊張感といったものを味わいたいからなのです。


    今まで訪れたたくさんの美術館。その中で、特にお気に入りの場所を一つあげるとすれば、東京の品川にある「原美術館」でしょうか。静かな住宅地の中、個人の家を改造したヨーロッパ風のモダン建築で、木の床をギシギシと踏みながら、質の高い現代美術を見ることができ、そのあと芝生のある中庭に面したカフェで、コーヒーを片手に、ぼんやり空を見上げる静かなひと時が、ことのほか好きなのです。


    もちろん、地方にも自然に囲まれた美術館は数多くあります。ぼくにとって特に思い出深いのは、もうはるか昔のことですが、妻との結婚が決まった頃、二人で訪れた信州の「美ヶ原高原美術館」です。九月のその日、美術館は高原特有の濃い霧に包まれていました。道を歩いていくと、何メートルもある巨大な野外彫刻たちが、乳白色の背景の中から、目の前に突然ぬうっと現れるのです。その美しいシルエットは、自然の巧まざる演出によって、驚くほどの鮮やかさで、ぼくらの心に刻みつけられました。


    最近のアートは、美術館から抜け出して、ぼくらの暮らす日常空間で展示されることも多いようです。その土地の風土や生活文化と、密接に結びついた美術のあり方を問うその試みは、とても意義のあることだと思います。


    けれどその一方で、美術館の魅力は、今でもぼくを捉えて放さないのです。


    しーんと静まりかえった空間の中で、ひとつの作品と一対一で向かい合う時、そこには日常から離れた別の世界が存在します。一流の芸術から発せられる美のエネルギーは、美術館という装置によって増幅され、常識で錆びついたぼくらの目を、洗い流してくれるような気がするのです。

     

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