石州誌6月号 「うるしうるわし和の暮らし」(六)

2018.06.16 Saturday 21:15
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    茶道会員誌「石州」の6月号が送られてきました。
    ぼくの連載も6回目。今回は「漆の乾き」についてです。


    漆は高湿度でよく乾く、ということを、まだまだご存じない方が多いようで、体験のときなどにそのお話をすると、びっくりされます。


    そうですよね。考えてみると、高湿で固まる漆ってほんとに不思議な液体。でも人間だって、これからの季節、高温・高湿になれば、じっと動かなくなりますよね。夏の昼寝は極楽です。(笑)

     

     

     

     


    ************* 本文全文 **************


    第五話「洗濯物と真逆の乾き方とは?」 — 不思議な漆の乾燥 —


    先回は、漆の「艶」についてお話ししました。漆の艶の出し方には二通りあって、ひとつは、油分を加えない上質の透漆(すきうるし)や黒漆(くろうるし)を塗り、十分乾燥させたあと、炭で研ぎ、日本産の生漆を引いて乾かし、磨く作業を何度か繰り返す「呂色(ろいろ)仕上げ」で、これはシャープな深みのある艶が生まれるということ。そしてもうひとつは、油分を少し加えた漆を、ゴミがつかないように塗り、時間をかけてゆっくり乾かす「塗り立て仕上げ」(花塗り)で、これはとろりとしたやわらかい艶が特徴だということでした。


    さて、これまで「漆の乾燥」「漆を乾かす」という言葉を、あたりまえのように使ってきましたが、漆が乾くのは洗濯物が乾くのとは全く違ったメカニズムがあり、乾燥の条件がある意味真逆であることは、みなさんご存じでしょうか。


    洗濯物が良く乾くのは、当然のことながら、からりと晴れて風がある、空気が乾燥している日ですよね。ところが漆は、そういう条件では乾きが悪いのです。漆がよく乾くのは、気温20〜25度、湿度75〜85パーセント、つまり梅雨時のような、かなりじめじめした高湿度においてなのです。これはいったい何故なのでしょうか。


    一般的に「乾く」というのは、そのものの中に含まれている水分が蒸発することですよね。ところが漆の場合は、そうではないということなのです。正確に言うと、漆は「乾く」のではなく、「固まる」という言葉を使った方が適切なのかもしれません。


    ちょっと専門的な話になって恐縮なのですが、漆の主成分は、「ウルシオール」という名の高分子化合物です。そしてそのほか、水分やゴム質などとともに、「ラッカーゼ」という酵素が含まれています。漆が乾くのは、このラッカーゼが働いて、空気中の水蒸気から酸素を取り込み、ウルシオールを固体に変える作用なのです。この酸化作用には、ある程度の温度と湿度が必要で、それが先ほどあげた漆が乾く条件になるというわけです。


    実際どのようにするかというと、電熱マットの上に水で濡らしたスポンジを敷いた「塗り風呂」という室(むろ)に、漆を塗ったものを入れ、中を密閉しておきます。乾きが悪い条件の日には、マットの電熱を入れ、スポンジの中の水分を蒸発させて、内部の湿度を高くするのです。この塗り風呂は、漆塗り職人の仕事部屋には必ず備え付けられていますが、塗るものが小さいものであれば、段ボールや衣装ケースなどで代用することも可能です。


    温度と湿度の関係ですが、大まかに言うと、気温が高い時は、それほど湿度を上げなくてもよく乾きますが、気温が低い冬などは、湿度を高くしないと乾きません。かといって90パーセント以上に湿度を上げてしまうと、漆器の表面が露結してしまうので注意が必要です。


    漆は、気温が4度以下ではほとんど乾かず、4度から40度くらいまではよく乾きます。ところが面白いことに、40度を過ぎるといったん乾かなくなりますが、80度を過ぎるとまた乾くようになるのです。不思議ですよね。


    この高い温度で乾燥させる方法を「高温乾燥法」とか「焼付け法」と言い、馬具や鎧など金属に漆を塗る場合に使います。茶釜などをつくる際の仕上げにも、さび止めのために漆を塗り、焼き付けています。いったん焼きついた漆は、ひじょうに堅牢な膜を作り、滅多なことでは剥がすことができないほどです。


    さて以上のことから、季節としては、漆が最もよく乾くのは「夏」で、乾きにくいのは「冬」ということになりますが、「梅雨」の時などは逆にあまりに早く乾きすぎて、仕事がしづらいため、漆の乾きを遅くするように調整しなければなりません。


    それはどのようにやるのかというと、漆をコンロにかけて、沸騰するまでぐつぐつ煮てつくった「焼き漆」と呼ばれるものを、何割か混ぜるのです。漆は沸騰させると、中のラッカーゼが死んでしまって全く乾かなくなり、この乾かない漆を混ぜることで、漆の乾きを遅くできるのです。(現在ぼくらは、漆屋さんが特種な方法で精製した「不乾燥」という漆を、焼き漆の代用として使っています。)
    ちなみに漆は、お酒を加えると乾きが早くなります。昔の職人さんは、「漆のご機嫌をとるんだ」と言いながら、口にお酒を含ませ、塗り風呂の中に、ぷうっと霧吹きのように吹いたのだそうです。


    また逆に油分や塩分が混じると、漆は乾きが遅くなります。したがって油分を加えた漆を塗る「塗り立て仕上げ」は、乾きがゆっくりなため、乾くまでの間に表面の漆が流れて刷毛目を消し、なめらかで均一な塗り面をつくることができるのです。


    さて、先ほど「高温乾燥法」に関係して、金属に漆を塗るというお話ししましたが、漆はどんなものにも塗ることができるのでしょうか。次回は、漆を塗る素地についてお話ししたいと思います。

     

     

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