石州誌2月号「うるしうるわし和の暮らし」(二)

2018.03.06 Tuesday 21:03
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    1月から始まった茶道会員誌「石州」への連載。2回目の投稿がちょっと遅くなってしまったけれど、「うるし うるわし 和の暮らし」の第一話「そもそも漆って何なの?」が、2月号に掲載されました。


    「今年1年間、12回にわたって、漆のことをいろいろ書いて下さい。」というこの連載。先月号は「序章」という「前置き」的なものだったので、今回から少しずつ順を追って、「漆」について解説していきます。


    ちょっとありきたりかもしれないけれど、まずは基本的な「漆ってそもそも何なの?」という疑問への答えとして、漆の木とその樹液の採取から話を起こしてみました。


    画像では読みにくいかもしれないので、下記に全文を掲載しておきますが、2000字くらいの原稿なので、漆に興味がおありの方、よかったら一緒におつきあい下さい。

     

    ++++++++++++++

     

    連載 「うるし うるわし 和の暮らし」

    第一話「そもそも漆って何なの?」 — 漆は木の生命そのもの —

     

    障子戸を通して入ってくる微かな光。そんなお座敷の暗がりの中に、ほのかに浮かびあがる漆の器は、神秘的と言ってもいいほど、荘厳な美しさを秘めていますね。その独特の深い色艶は、他の素材ではけっして出せないものでしょう。


    この美しさは、ひとえに、そこに塗られた「漆」という天然塗料の特性に因ります。みなさんは、この「漆」について、どんなイメージをお持ちですか?


    「漆」という言葉は、「樹木」「樹液」、そしてそれが塗られた「器物」、いずれにも使いますが、それぞれの一般的なイメージとしては、たぶん次のようなものはないでしょうか。

     

    一、    漆の木 … 真っ赤な紅葉はとてもきれいだけれど、夏山に入ってその下を通ると、いつもかぶれたっけ。
    二、    樹液 … とろとろとした粘りのある液体で、独特の臭いがあるよね。
    三、    漆器 … 朱や黒の美しい器。蒔絵などの装飾が施され、桐箱入りの高級品なものが多くて、手入れが難しそう。

     

    もともと「うるし」という音は、「うるわし」「うるおし」「潤(うる)汁」「塗る汁」などから転じたらしく、また「漆」の字の右半分のつくりは、木から垂れている汁を人間が受け止めている形を表したものだそうです。


    はるか数千年の昔、縄文時代の早期から、漆はその優れた性質により、ぼくらの暮らしのなかで永く使われてきました。けれど、その漆がどういうものか、一般には意外とご存じない方が多いようですので、きょうはまずその樹液を生み出す木と、液の採取について、少しお話ししたいと思います。


    漆の木(ウルシノキ)は、ウルシ科の落葉高木で、高さが七、八メートルにもなります。この木は、東アジアと東南アジアにしかありません。水はけが良くて陽がよく当たり、空気が湿潤で、栄養分の豊富な土のところ出ないと育たないんですね。同じウルシ科の仲間には、ヤマウルシ、ツタウルシ、ハゼ、ヌルデなどがありますが、漆液が採れるのは、この「ウルシノキ」だけです。毎年、四、五月頃に発芽し、六月頃、白っぽい黄色の小さな花を咲かせます。その実からは、和ろうそくの材料になる鑞(ろう)が採れるんですね。


    漆の樹液は、この木の幹を傷つけて採るのですが、一度にたくさんの傷をつけてもダメなんです。六月中旬から十一月頃まで、四、五日ごとに少しずつ長くした傷をつけて、そこからジワーッと浸み出てくる液を少しずつ掻き取り、貯めていきます。なぜ一度に傷をつけてもだめなのかというと、こうした樹液は、いつでも幹の中を流れているわけではなくて、傷をつけられたことによって、それを治すために、木が漆を作るからなんですね。


    ぼくらもケガをすると血が出ますが、その血はやがて固まり、かさぶたになって、やがて傷が治ってしまいます。漆の木も、傷を治すために「漆」という液を体内で作るわけです。だから、その力を弱めないように、木を上手に生かしながら、最初はごく短く、だんだんと長くなるように傷をつけていくんですね。木にとっては、傷を治すためのせっかくの液を奪われ、傷だらけにされるのですから、さぞつらいことでしょう。じつに可哀想なことをするわけですが、ぼくら職人は、まさにこの木の営みによって生かされているのだと思います。


    六月頃に採った漆は、「初物」(はつもの)とか「初辺」(はつへん)と言って、乾燥が早いために中塗りなどに、また七月、八月に採った漆は、「盛物」(さかりもの)とか「盛辺」(さかりへん)」と言い、最も品質が良いので、上塗り、磨きなどに使います。九月以降の物は、「遅物」(おそもの)または「末辺」(すえへん)と言い、乾きが遅くなります。そのあと「裏目掻き」という少し長い傷をつけて漆を採り、そして最後に、幹の周囲をぐるりと一周する「止め掻き」を行うと、木は根から吸い上げた栄養分を枝まで届けることができなくなり、文字通り息の根を止められ、その後、木は根元から伐採されます。


    一年で漆を取り尽くすこの方法は、「殺し掻き」という物騒な名前がついているのですが、その採取量は、一本の木から約二00ミリリットルと言われ、茶碗一杯分くらいしかありません。(何年にもわたって木を生かしながら採る「養生掻き」という方法もありますが、日本ではほとんど行われていません。)漆の木は苗を植えて十二年たって、やっと漆掻きができる太さに成長するのですが、せっかく育った木をまるまる一本使うわけですから、漆という材料自体が、いかに貴重かがわかっていただけると思います。ただ、切り株から芽が出て、八年くらい経つとまた漆が掻けるようになるので、ぼくらのこの仕事は、木を育て、木の生命(いのち)を繋ぎながら営んでいくものと言えるのでしょうね。


    さて、こうして得られた貴重な漆は、「魔法の液体」と言ってもいいくらいの素晴らしい性質を持っているのですが、そのお話は、また次回にしましょう。

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