最近の読書から〜山崎豊子「不毛地帯」第2巻〜第4巻

2012.07.04 Wednesday 21:02
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    ブログの更新をしなくては、と思いつつ、ずっとできなかった。

    その間、毎日寝る前に1時間ずつ、コツコツと読み続けたこの壮大な長編小説も、とうとう全4巻をすべて読了。読み終わると、ふぅーっと大きなため息が出た。あらためて、山崎豊子さんという作家のすごさに驚嘆する。

    第1巻で11年もの長きにわたりシベリアに抑留され、強制労働させられて、ようやく帰国を果たした壱岐正(いきただし)。近畿商事という繊維を扱う商社の大門(だいもん)社長に気に入られ、さんざん辞退はしたものの、結局入社することになる。大本営参謀本部で培われた組織を統率していく能力は、これからの商社のためにはなくてはならぬもの、と説得されたのだ。

    とは言え、繊維のことも商売のことも、何一つ知らぬ壱岐は、「嘱託」というフリーの身分で、自分より若手の先輩に疎まれながらも、ひとつひとつ教えてもらって勉強をしていく。

    やがて大門社長のお供で、初めてアメリカを訪れた壱岐は、そこから次期戦闘機をめぐる商社間の熾烈な争いに、否応なく巻き込まれていく。まるで「ロッキード事件」を予言したような展開だ。(この小説が書かれた時点では、まだその事件は起こっていなかったにもかかわらず)

    続いて、経営に行き詰まった弱小自動車メーカーを、アメリカのビッグ3のひとつと提携させることで救おうと動き始める壱岐。そして最後に彼は、中東の石油をめぐっての、血の滲むような壮絶な戦いに身を投じていく。

    一見、全く畑違いの分野に見えながら、国際政治にも深く関わる総合商社のビジネスは、戦争とも共通するものがあるのだ。あらゆる情報を収集し、瞬時に的確な判断を迫られる世界。そこで、壱岐は持ち前の能力を発揮しながら、会社のトップへとのし上がっていくが、さまざまな壁が彼の前に立ちふさがる。

    そして当然のことながら、自らの意志を貫くためには周囲の犠牲は避けられない。親友の自殺、部下の転落。家族の心は離れ離れとなり、妻や想いを寄せ合う女性の心にも、深い傷を負わせてしまうのだ・・・

    作品タイトルの「不毛地帯」は、前半のシベリアと、後半の中東イランの広大な地帯を指しているというが、それに加えて、国を思わず、利に汲々とするようになった戦後の人心の荒廃をも表しているのだろう。

    一応、有名な企業名や時の総理大臣の名前などは、仮名で記されてはいるが、すぐにどの会社、どの人物かわかってしまうところは、クスッと笑える。


    この長い物語を書き終えた作者の、作品に対する想いを書いたエッセイが、最後に掲載されているが、シベリアに抑留された方々をひとりひとり訪ねて、その重い口から当時のことを聴くことや、政治の壁に阻まれながら、当時のソ連や中東イランの地に実際に足を運んだときの、困難を極めた膨大な取材には、ほんとうに深く頭を垂れたい心境だ。

    ひとりの人間として必読の書だと、心から思う。


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