小さな美のポケット 第33話「日記の効用」

2019.02.04 Monday 20:21
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    2月の第1日曜日のきのう、村上新聞に「小さな美のポケット」第33話が掲載されました。今回のテーマは「日記の効用」です。


    一番古い、小学校6年生の頃の日記帳を引っ張り出して読んでみると、小学校の卒業式の日など、もうすっかり忘れていることがいろいろ書いてあって、なかなかに面白い。


    自分でも赤面するほど幼い記述ですが、その頃はそれなりに一生懸命考えて行動していたのだなと感じ、いつの間にか流れ去った50年の月日が、まるで「幻」のように思えます。


    変わったものと変わらないもの・・・自分っていったい何者なのか・・・。けっして読み返すことを想定して書いたわけではないけれど、たまには過去にタイムスリップすることで、今の自分について考えてみるのもいいかもしれないな、と感じました。

     

     

     

    小さな美のポケット 第32話「年賀状」

    2019.01.02 Wednesday 19:20
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      JUGEMテーマ:日記・一般

      JUGEMテーマ:アート・デザイン

       

      今年も、連載エッセイ「小さな美のポケット」(村上新聞)をよろしくお願い致します。


      年明け早々の1月1日号に、第32話「年賀状」が掲載されました。今回は珍しく、村上新聞社の竹内社長から「何かお正月らしい話題で」という注文がつけられたので、このテーマになった次第です。


      今年、ぼく自身は喪中のため、年賀状を出していないのですが・・・。いつもは250通ほど投函しますので、それがないだけ、今年はすごく楽。でも、部活の練習をサボったみたいに、何となく後ろめたいような・・・。

       

      小さな美のポケット 第31話「習い事と創作」

      2018.12.03 Monday 21:01
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        「小さな美のポケット」(村上新聞月1回連載)第31話です。
        今回は「習い事と創作」と題し、父のやっている書道塾から話を起こし、習い事と創作についての、ぼくの考えを書いてみました。


        写真は、うちの書道塾で毎年1回開催している講習会で、神戸から来られた先生に指導を受ける生徒さんの様子です。といっても数十年前の写真で、指導しておられるのは、父が師事した故・深山龍洞先生(左)、教えを受けているのは、まだ若き頃の叔母(父の妹)、高橋八重のようです。f(^ー^;

         

        小さな美のポケット 第30話「美術館の楽しみ」

        2018.11.10 Saturday 20:30
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          「小さな美のポケット」第30話(村上新聞連載エッセイ)が、先週の日曜日に掲載されました。


          今回のテーマは、「美術館の楽しみ」。
          数ある美術館の中で、どこを紹介しようかと迷ったあげく、今回話のタネにしたのは、東京品川にある「原美術館」と、信州の「美ヶ原高原美術館」です。


          最近の「芸術の秋」は、展覧会で忙しく、ゆっくり美術館巡りができないという、なんとも矛盾した現状。父と母の付き添いで、週に一度は病院巡り・・・どっぷりと「日常の垢」にまみれているこの頃です。(笑)

           

          **********(記事全文)************

           

          第三十話「美術館の楽しみ」

           

          自然が豊かで人情の厚い田舎は、暮らすにはほんとうに良いところですが、ぼくにとって、ひとつだけ都会暮らしがうらやましいと思うのは、近くに美術館があり、いつでもぶらりと出て、美術に親しめることです。時代の最先端を行く現代美術、美の巨匠たちの回顧展、そして、興味深いテーマで切り取られた企画展など、美術雑誌の展覧会案内には、見てみたい美術展がいくつも並んでいます。


          でも、ぼくが美術館に行きたい理由は、単に展示されているものを見たいだけではありません。一つ一つの作品が置かれる空間の美しさ、場の緊張感といったものを味わいたいからなのです。


          今まで訪れたたくさんの美術館。その中で、特にお気に入りの場所を一つあげるとすれば、東京の品川にある「原美術館」でしょうか。静かな住宅地の中、個人の家を改造したヨーロッパ風のモダン建築で、木の床をギシギシと踏みながら、質の高い現代美術を見ることができ、そのあと芝生のある中庭に面したカフェで、コーヒーを片手に、ぼんやり空を見上げる静かなひと時が、ことのほか好きなのです。


          もちろん、地方にも自然に囲まれた美術館は数多くあります。ぼくにとって特に思い出深いのは、もうはるか昔のことですが、妻との結婚が決まった頃、二人で訪れた信州の「美ヶ原高原美術館」です。九月のその日、美術館は高原特有の濃い霧に包まれていました。道を歩いていくと、何メートルもある巨大な野外彫刻たちが、乳白色の背景の中から、目の前に突然ぬうっと現れるのです。その美しいシルエットは、自然の巧まざる演出によって、驚くほどの鮮やかさで、ぼくらの心に刻みつけられました。


          最近のアートは、美術館から抜け出して、ぼくらの暮らす日常空間で展示されることも多いようです。その土地の風土や生活文化と、密接に結びついた美術のあり方を問うその試みは、とても意義のあることだと思います。


          けれどその一方で、美術館の魅力は、今でもぼくを捉えて放さないのです。


          しーんと静まりかえった空間の中で、ひとつの作品と一対一で向かい合う時、そこには日常から離れた別の世界が存在します。一流の芸術から発せられる美のエネルギーは、美術館という装置によって増幅され、常識で錆びついたぼくらの目を、洗い流してくれるような気がするのです。

           

          小さな美のポケット 第29話「使って楽しむクラフト展」

          2018.10.09 Tuesday 20:13
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            あれからもう四半世紀、25年も経ってしまったのだなあ・・・。


            うちの店の二階ギャラリーで開催した、初の企画展「心花めく器展」。清楚な山野草を、一流のクラフト作家が作った、センスあふれる一輪挿しに生けて展示するという、地方都市ならではのユニークな展覧会でした。


            連載エッセイ「小さな美のポケット」第29話は、そんなクラフト展のお話です。


            翌年は、身につけるアートとして、アクセサリーを捉えた「うつし身のアート展」、さらに家庭料理を盛って展示する「器の感食(かんしょく)展」やデザート・スイーツを盛り付けた「ほっと人囲器(ひといき)展」など、6回にわたって開催しました。


            生活を楽しむゆとり・・・それを失ってしまったような、昨今のせちがらい社会のなかで、はっと目をひくほどのクラフトも少なくなってしまったようで、とても淋しいですが、いろいろな作家との交流の中で培われた、器に対するデザインの眼・・・それだけは、今もぼくの中で確実に生きているようです。(*^_^*)

             

            **********(記事全文)************

             

            第二十九話「使って楽しむクラフト展」

             

            絵や彫刻のように、見て楽しむばかりでなく、工芸は「使う」という楽しみがあります。美術館で見る工芸作品の中には、鑑賞者が手に触れられないものがほとんどで、工芸の本質から言うと残念なことです。普段の生活の中で使われ、その魅力を発揮する「クラフト」と言われるものは、アートとデザインの二つの領域にまたがり、親しみやすく、より身近な工芸作品と言えるでしょう。


            一九九三年四月、弟夫婦も含めた家族みんなで話し合い、年に一度、店の二階のギャラリーで、独自のクラフト展を企画することにしました。


            最初は、「心花めく器展」と題した「山野草を生ける花器」がテーマ。でも、ただ単に花器だけを展示販売するだけでは面白くないので、その全作品に実際に花を生けて飾ることにしました。出品してもらう作家は独断で選び、面識のない作家にも大胆に企画書を送り出品を依頼すると、全国でも名の通った作家が多かったのですが、ほとんどの方がぼくらの趣旨に賛同し、出品を快諾してくれました。一方、生ける花の方は、山野草が大好きな母の友人たちが、庭に咲いた花を快く提供して下さり、普段見ることができないような珍しい花も多く集まりました。


            初日の朝、その一本一本を、それぞれの器に合わせて生けるのは、母の役目です。十日間の会期中、スポットライトの熱を浴びる花たちを管理するのもたいへんでしたが、連日多くの花好き、器好きな人たちで会場は大賑わい。家族は食事の時間もままならないほどでした。


            その後は毎年これを企画。例えばある年は、「器の感食展」と題し、地域の主婦たちの協力で、お皿や鉢などの器に、それに合う家庭料理をイメージして作ってもらい、実際に盛りつけて展示しました。そのほかデザートやお菓子を盛る器や、身につけるアートとしてのアクセサリーを特集したこともあります。


            器だけ見ると、あまりにシンプルで物足りなさを感じるようなものも、花を生けたり、料理を持ったりすると、がぜんその魅力を発揮します。この展覧会は、村上のような地方都市でなければできない企画で、ぼくらは地方で生活する者としての視点から、都会に集中しがちな質の高いデザインと、地域の自然に密着した生活文化を、独自なやり方で結ぶ試みをしたかったのでした。

             

             

            小さな美のポケット 第28話「心を捉えた一冊」

            2018.09.09 Sunday 16:20
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              村上新聞連載「小さな美のポケット」第28話です。
              今回のテーマは、「心を捉えた一冊」。


              小学校5年生の時に読んだ「平家物語」は、ぼくが読書好きになった原点と言える本。何度も何度も読みました。長野掌一さんによる訳文が、小学生にもわかりやすく感動を与えてくれます。


              その後、「源九郎義経」がぼくの中で、アイドル的な存在となりました。


              「九郎」と言われるからには、その上に8人兄がいたはずだ、と思い、いろいろ調べ、「義平」「朝長」「頼朝」「希義」「範頼」「全成」(今若)「義円」(乙若)まではわかったものの、最後の一人がどうしてもわからず、当時三之町にあった公民館の図書館でいろんな文献をあたり、ようやくもう一人の名前を見つけたとき、すごく嬉しかった思い出があります。


              こんなつまらないところにこだわるなんて、救いようがない馬鹿ですね。今度は「東八郎さん」の兄弟捜しでもしようかな。(^_-)-☆

               

              ***************** 記事全文 *****************

               

              第二十八話「心を捉えた一冊」

               

              「好きなことを仕事にできて、いいですねえ」と、よく言われます。たしかに「天職」とも言える漆の仕事は、たくさんの喜びや充実感を、ぼくにもたらしてくれます。けれど、根気を持続させ、気を張りつめて行う作業も多いため、やはり息抜きは必要です。


              その息抜きを与えてくれるひとつが「本」。ぼくは子どもの頃から、本を読むことがなにより好きでした。今でも、寝る前一時間の読書は、心が解放される貴重な時間です。一冊の本さえあれば、何時間でも退屈することはありません。


              それほどぼくが本好きになったきっかけは、小学校五年生だった年の冬、親に買ってもらった「平家物語」でした。少年少女向けに書かれた古典全集の中のこの一巻を、茶の間のこたつに入りながら、時の過ぎるのも忘れ、何度もむさぼるように読んだことを思い出します。


              平清盛の寵愛を受けた白拍子「妓王」(ぎおう)と「仏御前」(ほとけごぜん)の悲しい行く末、橋桁の上で源氏方の僧兵が大活躍する「宇治川合戦」、源義経の胸のすくような奇襲作戦「鵯越(ひよどりごえ)の逆落とし」、戦場に一幅の絵を見るような「扇の的」、いたいけな安徳天皇の入水など、これほど悲喜こもごものドラマが多く挿入された物語は、ほかにないのではないでしょうか。


              たまたま翌年、NHKの大河ドラマで「源義経」があり、当時の尾上菊之助さん(現在、尾上菊五郎さん)演じる義経が、兄頼朝に追われ、北陸路をさまよううち、ひとりふたりと、かけがえのない家来を失っていく件(くだり)は、本で読んでいたからこそ、なおいっそう胸に迫り、とても涙なしでは見られませんでした。


              その後、ぼくはすっかりこの本の虜(とりこ)になり、原文でも読みましたが、文章のリズムがとても心地よく、琵琶法師がせつない琵琶の調べに乗せて語り伝えた文学であることがよくわかります。「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」という有名な序文は、全文を覚え、何度諳(そら)んじたかわかりません。


              子どもの頃に出会う一冊の本は、やわらかな感受性に支えられ、伸びゆく自らの世界を、より広く、深いものにしてくれます。想像力を育み、言葉や文章に対する鋭敏な感覚を養ってくれる読書の楽しみは、漆の仕事とともに、天からぼくに与えられた、何よりの贈り物なのでした。

               

              小さな美のポケット 第27話「父のリアリズム」

              2018.08.06 Monday 20:28
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                先月は掲載がお休みだったので、2ヶ月ぶりとなった「小さな美のポケット」(村上新聞連載)。

                今回は、第27話「父のリアリズム」。

                「写実」を作品制作の信条とした父に、ぼくが何を教えられ、どんな影響を受けたかについて記しました。


                自分の息子に対しては、ぼくは何も伝えてあげていないのではないか・・・と、何となくうしろめたい思いでいっぱいです。

                 

                ************* 本文全文 **************

                 

                第二十七話「父のリアリズム」

                 

                ぼくは、結果的に父の跡を継いで、漆の仕事を始めることになったのですが、「父の技を受け継ごう」とか、「いつか父を乗り越えたい」などという思いが、最初にあったわけではありません。むしろ、漆をやり始めた未熟なぼくにとって、父の仕事は完璧に近いものであり、父は、ぼくが何年かかっても追いつけない、技術とセンスを持っているものと感じていました。でも、息子としては面と向かってそれを口に出すことはなく、むしろそう感じていたからこそ、父とは違う方向で作品を作ろうとしたのかもしれません。


                ぼくが美大へ入るため、初めて東京で独り暮らしを始めた時、アパートまで送ってきてくれた父は、部屋に一通の置き手紙をして、村上に帰っていきました。その手紙には、こんなことが書かれていました。


                「美術の学校に入って何をするのか、と今更のように思うかもしれないが、自分自身の心の目で『美しい』と感じることのできる感覚を少しでも養ってほしい。『花は美しい』とは誰もが言う。それがいつの間にか、自分の感覚のような気がして、何が美しいか自分では少しも感じないのに、そう言ってしまうことのないように。花のどこが美しいのか、自分の目と手で確実に感じとることで、初めてそこに美の発見があるのだ。」


                この父の言葉は、作品を作る上での、父の基本的な考え方でもあるとぼくは思います。父は「何となくそれらしきもの」という情緒的な曖昧さを嫌い、対象を自分で徹底的にスケッチすることで、自然の美を確実に自分のものとし、そこに新たな秩序を与えるのです。それは、先人が残した書の古典というものを徹底的に研究することから、自分独自の作品を生み出す書道の世界と、相通じる考え方かもしれません。ぼくは、この「リアリズム」(写実主義)とも呼べるような父の考え方に、強い影響を受けました。


                「工芸」と「書」という二つの分野で、ずっとわが道を歩んできた父。ぼくは漆だけで手いっぱいでしたが、その仕事を四十年続けた今となっても、父の存在は大きく、その言葉は重く響きます。この自然界にある数多くの美を、真摯な目で見つめ、そこから美の本質を紡ぎ出していく、というものづくりの姿勢において、ぼくが学ぶべきことは、まだまだ多くあるなあと、あらためて感じるこの頃です。

                 

                小さな美のポケット 第26話「思い出のクラフトショップ」

                2018.06.04 Monday 19:46
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                  村上新聞連載エッセイ「小さな美のポケット」第26話。
                  昨日、掲載となりました。今回のタイトルは「思い出のクラフトショップ」。


                  柾谷小路沿い、三越の並びにあった「ワークアップ」というお店ですが、ご存じの方も多いのではないでしょうか。最近は、長坂さんご夫妻にお目にかかることもなくなってしまって、ちょっと淋しい・・・。良いものがたくさん揃っていたお店でした。


                  ************* 本文全文 **************


                  第二十六話「思い出のクラフトショップ」


                  「新潟に、とても良いクラフトの店を見つけたよ。」
                  弟がちょっぴり興奮して帰ってきたのは、ちょうど、うちの店の改築計画が進んでいた、昭和六十年七月のことでした。


                  三越の少し先、柾谷小路沿いにさりげなくある、「ワークアップ」という名の小さなお店。その一階には、陶器、ガラスなどの器や、アクセサリー、雑貨、文房具など、デザインの良いものばかりが並び、二階には、シンプルな形、美しい色彩のヨーロッパ製の木の玩具が、たくさん置いてあります。


                  以前から、こうしたお洒落なクラフトや雑貨の店が大好きだったぼくら兄弟は、東京の青山、原宿、代官山などを歩いては、お気に入りの店探しをすることを、無上の楽しみにしていました。なので「とうとう新潟にも、こんなにセンスの良い店ができたんだ」と、とても嬉しく感じたのです。


                  ここの店長である長坂益一(ながさか・ますかず)さんは、すらりとした長身のシティーボーイ。奥様は目鼻立ちのはっきりした美人で、お話好きの気さくなご夫婦でした。ぼくらはすっかり意気投合し、それ以後も新潟に出る度にこの店に寄り、お気に入りのコーヒーカップや花器、またその頃まだ小さかった息子のために、木製の電車や線路、クマさんの形をしたシャボン玉などの玩具をよく買わせてもらい、弟は個展もさせてもらいました。


                  同じ一杯のコーヒーでも、自分が心から愛着の持てる器で飲むと、その味がまるでちがいます。生活を楽しむゆとりやセンスを持つことは、ぼくらの心を潤してくれるのですね。建設中だったうちの店の二階にも、良質なクラフトの器を置くコーナーをつくることにしたのは、そんな心地よい暮らしを提案したいという願いがあったからでした。


                  長坂さんは、やがて万代と古町に「PAO」(ぱお)という若い人向けのお店もつくられたのですが、残念ながらこの「ワークアップ」も「PAO」もは、現在はありません。なかなか景気の回復が実感できない中で、大消費地の東京においても、クラフトそのものが、危機的な状況にあるようです。


                  けれども、悲しい災害や事件が多発する殺伐とした今の時代だからこそ、つくり手の温もりが伝わる、優れたデザインが求められ、美しいものに囲まれた、日常の穏やかな時間が必要なのではないかと、ぼくはそう感じています。

                   

                  小さな美のポケット 第25話「幸福な第一歩」

                  2018.05.02 Wednesday 20:58
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                    村上新聞連載エッセイ「小さな美のポケット」第25話が、一昨日の日曜日に掲載となりました。いつもは月初めの日曜なのですが、大型連休のためか、今回はひと足早くの掲載です。


                    テーマは「幸福な第一歩」と題して、ぼくが本業の村上木彫り堆朱を始めた20歳のとき・・・原始時代のお話です。(笑)


                    新聞は白黒のため、一応カラーの添付写真も載せておきますね。

                    初めて、図案、彫り、塗りを自分ひとりで手がけた作品。
                    「堆朱」と言っても、朱を使わず、「うるみ」という朱と黒を半々ずつ混ぜ合わせた色漆で仕上げた色紙箱です。


                    この記事を読んだ父と妻の反応。
                    父「おまえ、こんなの作ったんだっけ? 俺はマッタク覚えてない・・・」
                    妻「あなたも昔はこんなの彫れたのね。知らなかった・・・」


                    家族にも知られざるぼくの過去・・・思えば遠くまで来たもんだ。(^^ゞ

                     

                    *************(記事全文)*************

                     

                    第二十五話「幸福な第一歩」

                     

                    言うまでもなく「村上木彫り堆朱」は、すべてが手づくりです。木地を作り、図案をつけ、彫刻を施して、全部で十六とも十七とも言われる漆塗りの工程を経て完成します。完成までは、短いもので一ヶ月半、長いものは半年もかかります。この彫り、塗りの一つ一つの技を、完全に身につけるには、長い時間と多くの経験が必要だと言えるでしょう。


                    ぼくがこの仕事を始めたのは、東京の美術短大から家に帰省していた夏休み、「どうだ、ちょっとやってみるか」と父に言われ、父がつけてくれた図案を小箱に彫ってみたのが最初でした。


                    その頃、父の仕事場には、Aさんという女性の弟子がいました。二十代の頃から、うちに住み込みで弟子に入り、ぼくにとっては、小学生の頃から何かと世話をしてもらった姉のような存在でした。敬虔なクリスチャンで、茶道への造詣も深く、多くの本を読む勉強家で、父も彼女に教えられることが多くあったと言います。


                    そのAさんが、ぼくの使う彫刻刀を研いでくれました。村上堆朱で使う彫刻刀は、上から見ると逆Vの字の形をし、左右に刃がついた「裏白」(うらじろ)という名の特別のものです。慣れないぼくは、無理に力を入れすぎて、その刃をすぐ折ってしまうので、彼女はその都度、何度も研ぎ直さなければなりませんでした。


                    そんな苦労をかけながら、ぼくはようやく一通りの彫り方を覚え、大学を卒業してからは、塗りの方も少しずつ教えてもらうことになります。


                    最初に手がけたのは、角丸(かどまる)の角盆と、足が「く」の地になっている花台でした。初心者には難しい品物ですが、父はあえてごまかしがきかないものを、ぼくのために選んでくれたようです。


                    厚く漆を塗りすぎて、「縮み」というシワができたり、力任せに研ぎすぎて、せっかく中塗りまでやったのに、素地の木が表面に出てしまったりと、ひどい失敗をいくつもしました。生漆(きうるし)の桶の中に、木の粉をひっくり返してしまい、Aさんが大量の漆をすべて漉し直すはめにもなりました。


                    そうして上塗り以外のほとんど全ての工程を、自分でやることにより、ひとつのものを美しく仕上げる苦労と、先人が工夫した技の数々を、身にしみて学ぶことができたのです。それが、父とAさんに導かれた、ぼくの幸福な第一歩なのでした。

                     

                     

                     

                    その頃、弟が撮ったと思われる、こんな写真も見つかりました。たぶん、初めての桐箱の箱書きだったのでしょう。(笑)

                     

                    小さな美のポケット第24話「町屋育ち」

                    2018.04.02 Monday 19:38
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                      「町屋のお人形さま巡り」も、明日でもう終わりですね。
                      「小さな美のポケット」(村上新聞連載エッセイ)の第24話が、昨日掲載となりました。タイトルは「町屋育ち」。


                      城下町村上の町屋に生まれ育った自分が、町屋の良さをほんとうに実感できるようになったのは、中年を過ぎてからでした。長い間かかって自分に擦り込まれた、空間の美意識・・・それはもう理屈ではありませんね。


                      よく「ウナギの寝床」と言われますが、こういう家に住むことを心地良く感じるのは、ぼくの前世は、もしかすると「うなぎ」だったのかもしれません。

                       

                      ************(記事全文)**************

                       

                      第二十四話「町屋育ち」

                       

                      村上では毎年三月になると、町屋商人(あきんど)会の人たちの手により「町屋の人形さま巡り」が開かれます。西暦二千年に始められたこのイベントは、九月の「屏風まつり」と並んで、春や秋を彩る風物詩として、もうすっかり地域に定着したと言っていいでしょう。


                      城下町村上には、歴史的な文化財として、武家屋敷も数棟残っていますが、街の中心街には、未だ、間口が狭く、奥行きの長い町屋が並び、昔からの庶民の暮らしを伝えています。ぼく自身もこうした町屋で育ったので、昔のままに使われている家にはいると、幼い頃の思い出がふっと蘇り、とても懐かしく感じます。


                      表の戸や窓には、細かな格子がはめられ、玄関から裏口まで、まっすぐに土間が通っています。部屋はその土間の片側だけに並び、途中には必ず、光を取り入れるための中庭がある。また「茶の間」は、天窓のある屋根までの吹き抜けで、太い梁がむき出しのまま。真ん中には囲炉裏が切られ、自在鈎が吊されています。高いところに神棚、その下に仏壇が据えられ、幅の広い鴨居や、「箱階段」という収納を兼ねた階段には、漆が塗られ、見事な艶を見せているのです。


                      しかし、こうした町屋の良さも、若い頃は全く理解できず、寒くて薄暗くて、部屋の間取りが自由にならない家の造りを恨めしく思っていました。毎日のように手伝わされた家の掃除も、長い土間に水を撒き、端から端まで箒で掃いていくのは、ひどくたいへんな作業だったのです。


                      けれども年齢を重ねるうち、町屋の機能的な面がいろいろ見えてきました。夏には土間を涼風が吹き抜けます。また土間にある台所は、水や油がはねても平気。木が植えられ、石灯籠の配された中庭は、心の安らぎを与えてくれると同時に、冬は屋根の雪を下ろす場所にもなります。


                      そして何よりも、どっしりした風格あるたたずまいが、何世代にも渡って連綿と続いてきた家の暮らしを伝え、地域の風土に即した住まい方を、ぼくらに教えてくれます。


                      村上の伝統的工芸品である「木彫り堆朱」も、障子戸を通して中庭から入る、ほのかな光の中に置かれてこそ、その赤い漆が美しく浮かびあがるものなのではないでしょうか。


                      町屋は、庶民の生活文化を育み慈しむ「お母さん」のような存在なのかもしれません。

                       


                      Calender
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