最近の読書から 〜伊集院静「海峡」「春雷」「岬へ」

2017.09.29 Friday 22:43
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    読んだ本の感想を長々と書いても、それを読む人にとっては、退屈だろうなあ・・・特にその本を読んだことのない人にとってはね。


    そう思って、読んだ本のことを投稿するのを、しばらくためらっていたのだけれど、伊集院静さんのこの3部作は、とても良かったので、久しぶりに本の紹介をしてみる気になりました。長文、ごめんなさい。


    太平洋戦争の傷跡がまだ癒えぬ時代、瀬戸内海の港町で生まれ育った少年高木英雄が、いろんな人との出会いによって、成長していく青春物語です。


    下村湖人の「次郎物語」や井上靖の「しろばんば」「あすなろ物語」に似ているという人もいますが、ぼくは五木寛之の「青春の門」に共通する雰囲気を感じました。


    大まかに言えば、「海峡」は小学生時代、「春雷」は中学生時代、そして舞台が東京へと移る「岬へ」は大学生時代ということになるでしょう。


    英雄の生まれた家は、海運業を営む厳格な父を中心に、その父を頼り、慕ういろんな国籍の従業員や女衆が大勢、寝食を共にしていて、港町特有の猥雑で、荒っぽいけれど、人情味豊かな空気が、彼をたくましく成長させていきます。


    広島の原爆による病気や偏見に苦しむ人、朝鮮人やその人たちを庇護する人への差別などを目にしながら、若さゆえのしばしば羽目を外した行動に出る友達との交わり、けんか、熱血漢のユニークな先生との語らい、恋、さまざまな人の死を経験していく英雄。家業を継がせようとする父への反発が、全編を貫いていますが、それでは何をやりたいかと言えば、彼にはまだ自分というものが見えていません。悩み、葛藤しながら、自分の歩むべき道を探し続けます。


    優れた小説というのは、目の前に映画のスクリーンが現れたように、その場面、場面の情景が鮮やかに浮かびあがるものではないでしょうか。


    海で行方不明になった弟を捜索する「岬へ」の場面は、ことに圧倒的な臨場感をもって、こちらの胸に迫ってきます。涙が抑えられなくなるかもしれません。


    青春小説は、中年を過ぎてからこそ、そこはかとない哀感を伴って心に響くものであるようです。まだの方は、ぜひご一読をお薦めします。

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    最近の読書から 〜東野圭吾「容疑者Xの献身」

    2017.05.28 Sunday 22:12
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      「いまさらこの作品?」と言われるかもしれないけれど、東野圭吾「容疑者Xの献身」を初めて読みました。

       

      本格ミステリ大賞、直木賞を受賞し、「本格ミステリ・ベスト10 2006年版」「このミステリーがすごい!2006」「2005年週刊文春ミステリベスト10」において、それぞれ1位を獲得して話題をさらった、ミステリー界では有名な作品。

       

      もちろん名前は知っていたし、福山雅治、堤真一、松雪泰子、北村一輝などの出演で映画化されたものは見ていたけれど、正直、映画ではあまりピンときませんでした。

       

      でも原作を読むと、やはり違いますね。ものすごく面白い。犯人がわかっているのに、こんなに読者を引きつけることができるのは、やはり人気作家 東野圭吾の筆力でしょう。

       

      ストーリーは、それほど複雑ではありません。中学生の娘と二人暮らしの花岡靖子が、しつこくつきまとう別れた暴力亭主を喧嘩したはずみで殺してしまうのですが、以前から靖子に好意を寄せていた、隣人で数学者の石神哲哉が救いの手をさしのべ、死体処理を引き受け、緻密な隠蔽計画を立てて、二人に容疑がかからないように仕向けてくれるのです。

       

      しかし、石神と大学が同期で天才物理学者である湯川学が、その成り行きに疑問を持ち、やはり大学が同期の担当刑事である草薙とともに、事件の真相を追求していきます。

       

      二人の天才の行き詰まるような対決、巧妙に仕組まれたトリック、あっと驚くラストのドンデン返し・・・。

       

      本格ミステリーの醍醐味を存分に味わわせてくれる魅力の一冊です。

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      最近の読書から 〜薬丸岳「闇の底」「虚夢」

      2017.05.05 Friday 20:35
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        サスペンス、ミステリー、スリラー好きな妻と自分。

        朝食をとりながらの45分間、映画やWOWOWのドラマを観る。

        そして、布団に入ってから消灯までの45分間は読書。

        365日、この習慣は変わらない。


        ぼくが先日読了したのは、「天使のナイフ」で江戸川乱歩賞を受賞した薬丸岳の、受賞後1作目、2作目の作品。


        「闇の底」は、幼児の性犯罪事件がテーマ。その手の事件が起こるたび、前歴がある加害者を殺すことによって、卑劣な犯行を抑止しようとする男。それを追うのが、かつて妹を同様の事件で亡くし、人生を狂わされた刑事という独特の設定。


        「虚夢」は、通り魔事件で娘を奪われた夫婦が、心神喪失で不起訴になった犯人を追う物語。


        「天使のナイフ」は少年犯罪がテーマだったが、この2作にも刑法の問題提起がある。被害者と加害者の痛みがひしひしと読者に伝わるとともに、平易で読みやすい文章、あっと驚く結末のドンデン返しは、相変わらず魅力的だ。

         

         

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        最近の読書から 〜黒川博行「国境」

        2017.04.12 Wednesday 20:16
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          「国境」よね。これ、おもしろいわよ〜!


          ぼくが手にした一冊を見て、かみさんが太鼓判を押した。ぼくよりはるかに冊数を読んでいる、読書好きの彼女が言うのだから、間違いなかろう。


          そう思いつつ読み進めると、まさに、これぞ黒川博行の極めつけの傑作だった。ハードボイルドの世界にぐいぐい引き込まれる。
          イケイケ極道の桑原と、建設コンサルタントの二宮という「疫病神」コンビが、詐欺師を追って北朝鮮に潜入する。ハラハラドキドキの展開だ。


          日本にいては考えも及ばないような、北朝鮮の実態がリアリティーたっぷりに描かれる。常にぴりぴりと神経を張りつめていなくてはいけない国・・・。


          しかしそんな中、彼ら二人の、関西弁による軽妙な掛け合いが、漫才よりもおもしろく、心を和ませる。これがとても魅力。


          かなりアクの強い世界が描かれるので、向き不向きはあるだろうけれど、読んでけっして損はしない一冊だと思う。

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          最近の読書から 〜帚木叢生〜「日御子」

          2017.03.10 Friday 21:12
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            先日読んだ「聖灰の暗号」がすこぶる良かったので、帚木蓬生(ははきぎほうせい)さんのものをもう1冊、手にとった。


            この本は、はるか2〜3世紀の太古の日本に、ぼくらを連れて行ってくれる。精神科医でもある帚木さんの、語りかけるようなやさしい文体と、臨場感たっぷりの描写、随所にあふれるヒューマニズムは、ここでも健在だ。


            「日御子」は、もちろん邪馬台国の卑弥呼のことだが、「邪馬台国」も「卑弥呼」も、魏志倭人伝に、当時の異民族である日本を蔑んで用いた字である。よってここではその字は使わず、「弥摩大国」の「日御子」として登場する。


            といっても、彼女が登場するのは物語の後半で、前半の大部分は、弥摩大国に先立って、漢の都「洛陽」に朝貢に赴いた伊都国(いとこく)の人たちの旅行記である。


            まだ船も小さく、馬車も知らず、鉄を精錬することもできなかった日本の1小国が、命がけで荒海を越え、何ヶ月もかけて洛陽までたどり着く苦難や、先進国である中国の文物に驚嘆する様子が、主人公である使譯(しえき=国の通訳兼書記)の目を通して、いきいきと再現される。


            国と国が入り乱れて争い、多くの人が亡くなっていった当時の日本。その悲劇の中に生まれた日御子は、争いを好まず、賢く国々を統治していき、やがて尊い平和が訪れる。


            人々の暖かい交流と平和。これこそが人類の幸福の源だと思うのに、なぜ人は争うのか。21世紀になった今でも、本質は何も変わっていない。人類は進歩などしていないのではないか・・・そう感じざるを得ない。

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            最近の読書から 〜帚木叢生〜「聖灰の暗号」上巻・下巻

            2017.02.19 Sunday 13:42
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              読書の楽しみのひとつは、今まで自分がまったく知らなかった世界を、語り手がまるで目の前にいるみたいに、身近に親しく語ってくれることだろう。


              この本は、13世紀というはるか昔、舞台はフランスとスペインの国境ピレネーの山麓の村、しかもキリスト教の異端裁判をめぐる歴史ミステリーということで、21世紀の日本に住むぼくらにとっては、一見あまり馴染みのない物語と思われるかもしれない。


              ところが、である。一読したぼくが、「これはすごい!こんなことがあったのか!?」と、一気にのめり込んでしまったのは、ナチスのユダヤ人虐殺を思わせるような、過酷な火刑の場面の圧倒的なリアリティーと、拷問や火刑の苦難をも静かに受け入れ、ローマ教会のまちがった制度を糾弾し、聖書の本質を語るカタリ派聖職者の強く清々しい生き様である。


              クリスチャンの方、特にカトリック信者の方は、これを読んでどう思われるだろうか。たぶん異論があるかもしれない。


              ただぼくらは、十字架や聖水、教会などという「形」に依らずに、シンプルに聖書に書かれていることを実行しようとする人たちがいて、十字軍の名の下に、ローマ教会とその権威を利用したフランス国王によって、徹底的に弾圧された事実を知ることで、宗教や信仰の本質、ひいてはこの世から争いを無くすための寛容の精神についても、あらためて考えることができると思う。「深い楽しみ」を味わえる一冊である。

               

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              最近の読書から 〜夏樹静子「てのひらのメモ」、葉室燐「実朝の首」

              2017.02.03 Friday 20:46
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                先回に引き続き、夏樹静子さんの裁判モノ「てのひらのメモ」を読む。


                思いがけなく「裁判員」に選ばれてしまった女性を主人公とし、一連の裁判員裁判の詳細が事細かにわかる。もし裁判員になったら、これを読もう!・・・的な、テキストのような小説だ。


                と言っても固苦しい内容ではなく、6歳の息子を気管支ぜんそくで亡くし、「保護責任者遺棄罪」に問われた母親が、有罪か無罪かをめぐって繰り広げられる、丁々発止の法廷劇。


                検察側、弁護側、どちらの主張にも一理あり、そこから浮かびあがるのは、さまざまな不運に見舞われる中、必死に誠実に生きようとする「人間の悲哀」ではなかろうか。


                そしてもう一冊は、葉室麟さんの時代小説「実朝の首」。


                鎌倉幕府の三代将軍、源実朝が、甥の公暁(くぎょう)に、鶴岡八幡宮の大銀杏の下で斬り殺される、あの有名な場面から始まり、虎視眈々(こしたんたん)と権力を狙う北条義時や、その力を利用してのし上がろうとする三浦義村、武士から政権を奪い返そうとする後鳥羽上皇、陰の将軍としてその胆力、知力は並ぶもののない尼将軍、北条政子などが入り乱れて、権謀術数の限りを尽くす中、ある志を持った、真っ直ぐでさわやかな若者集団の、棟を梳くような活躍が見事。ハラハラドキドキの面白い一冊だった。

                 

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                最近の読書から 〜夏樹静子「量刑」

                2017.01.21 Saturday 20:33
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                  久々に手に取ったレンガ本。
                  クリスマス・イブに借りてきて、ようやく読み終えた。
                  710ページは、やはり読み応えがある。


                  ミステリー作家として活躍し、去年惜しくも亡くなった夏樹静子さんの裁判モノ。犯人捜しの妙味や、奇抜なトリックなどはいっさいないが、いきなり交通事故から始まり、殺人、裁判、誘拐・・・と、臨場感あふれる描写で、先が読めない展開に思わず引き込まれ、飽きることがない。


                  32歳の上村岬が、不倫相手に頼まれて「ある大切なもの」を車で運んでいる最中に、身重の女性とその6歳の娘をはね、更に殺人まで犯してしまうという、衝撃的なプロローグ。


                  やがて裁判となるが、映画などでよく描かれる、検察と弁護士の対決だけではなく、それを裁く裁判官の、ひとりの人間としての様々な心理が細かく描かれ、いろんな人の思惑を絡めながら、裁判は進んでいく。そして、判決が何となく見えてきたかに思えたとき、こともあろうに裁判長の家族にある危機が・・・。


                  これはミステリーというより、社会小説という方が近いように思う。裁判員にでも当たらなければ、おそらく経験することのない刑事裁判。居ながらにして、そんな未知の世界を知ることができるのが、「読書」のこの上ない面白さではないだろうか。

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                  最近の読書から 〜栗本薫「ぼくらの時代」

                  2015.05.31 Sunday 22:20
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                    第24回(1978年)江戸川乱歩賞の本作。

                    「中島梓」の名前で、評論や作詞・作曲・ピアノ演奏・ミュージカルの脚本なども手がけ、また1980年から6年間、テレビ朝日の「象印クイズ ヒントでピント」のレギュラーを務めるなど多才の人だが、「ぼくらの時代」は、栗本薫の名前による小説家デビュー作で、まだ彼女が大学を出たばかりの、25歳の時の作品だ。ぼくは若いころ一度読んだ記憶があるが、中身は全く覚えていない。だから新鮮な気持ちで楽しむことができた。

                    第1の殺人事件が起こるのは、男性アイドル歌手が出演するテレビ番組の収録スタジオ。抽選で選ばれて収録を観覧していた女子高校生が突然何者かに刺殺された。当然ながら、容疑者はそのスタジオ内にいた人間に限られ、しかもテレビカメラが何台も回っていた中で事件が起きていることから、全員のアリバイが録画で証明されることになる。そしてそれが解決されぬうち、同じテレビ局内で第2の殺人が・・・。

                    現場にいた、作者と同じ「栗本薫」という名前の22歳の男子大学生が、ロックバンドの仲間とともに、この難事件を解決していくと言うストーリー。1970年代に青春時代を過ごしたぼくらには、当時の雰囲気がなつかしく思い出される。どこかゆるゆるで、あっと驚くような展開はないけれど、気楽に楽しめる一冊である。






                     
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                    最近の読書から 〜森村誠一「高層の死角」

                    2015.03.29 Sunday 19:58
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                      JUGEMテーマ:読書

                       

                      もう「ミステリーの古典」と言ってもいいだろう。
                      森村誠一「高層の死角」・・・江戸川乱歩賞全作を読もう、と思い立って、これで12冊目。
                      しかしこの作品は別格だ。

                      前にこれを読んだのは、ぼくがまだ十代の頃。
                      面白かった記憶はあるが、ほとんど内容は覚えていない。
                      そこであらためて読み直してみた。

                      高層ホテルを舞台にした2つの殺人事件。1つは完全に密室。
                      もう1つは鉄壁のアリバイ。これをどう崩すか・・・。
                      飛行機の時刻表や、ホテルのチェックインシステムを見事に駆使した完全犯罪だ。

                      犯人と頭脳戦をやってみたい方、必読である。(*^^)v








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