新潟日報文化欄への寄稿「展覧会へようこそ」〜中村謙二展〜

2018.08.06 Monday 20:32
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    きょう、新潟日報文化欄に掲載となった記事。
    弥彦の丘美術館と中村謙二さんご自身から依頼され、書いたものです。つたない文章ですが、この記事が、少しでも弥彦の丘美術館の集客につながればいいなあ・・・と思っています。

     

    ************* 本文全文 **************

     

    天の明るさと地の暗さとの対比が、山の稜線のシルエットをくっきりと描き出した後、ゆっくりと照明を落とした空は、やがて濃紺に染まり、星の粒を浮かび上がらせる。その静かな時の流れと鮮やかなる変化。展示室の中は、そんな夏の夕闇の情景を彷彿とさせる舞台装置のようだった。


    この美術館では9年ぶり2回目になる中村謙二さんの今回の展示は、1979年の日本現代工芸美術展初入選作「暮海」をはじめ、日展出品の3点の一曲屏風を中心として、最近の中小作品まで、綿密に調整された照明の中に、20点の漆の平面作品が整然と並ぶ。筆で描いた漆の線に金粉を蒔く「蒔絵」(まきえ)、彫刻刀で彫った線に金粉を摺り入れる「沈金」(ちんきん)、金粉の代わりに色漆を埋める「蒟醤」(きんま)、夜光貝やアワビなどを漆で貼り付ける「螺鈿」(らでん)、金属の板を埋め込む「平文」(ひょうもん)など、あらゆる漆の加飾法が、自在に駆使されているものばかりだ。


    それらは、加茂の建具屋さんの次男として生まれ育った中村さんが、漆と出会い、漆の魅力に惹かれながら、長い経験によって身につけた確かな技。「一本の線でもおろそかにするな」と教えられたという中村さんは、一つの正円でさえ、彫刻刀の角度を固定して一定の力で彫るための道具を考案する。発色を良くするために、3日かけてゆっくり乾くように漆を調整したりもするそうで、その陰には多くの工夫や研究が積み重ねられているのだ。


    天空に散りばめられた星のきらめき、アンコールワットや王冠、装身具、象形文字など歴史を感じる豊かなイメージが、まるで宇宙そのものを製図するかのように、考え抜かれた構図の上に一体となり、見る者をはるかな遠い世界へと引き込む。数多くの名誉ある賞や表彰を受け、県の工芸界の第一人者だが、そんな経歴とは裏腹に、穏やかで謙虚なお人柄、惜しげもなく技術を教える懐の深さは、作品にも反映していると感じた。


    星と星の間の暗い部分はけっして空洞ではなく、そこにも望遠鏡をかざせば無数の星のきらめきがあるように、黒の漆は、技術やイメージや作者の人間性をも溶かし込みながら、どこまでも深く、温かい。おそらくそれは、誰でもが心に持っているという宇宙、「曼荼羅(まんだら)」の世界そのものと言えるかもしれない。

     

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    小さな美のポケット 第27話「父のリアリズム」

    2018.08.06 Monday 20:28
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      先月は掲載がお休みだったので、2ヶ月ぶりとなった「小さな美のポケット」(村上新聞連載)。

      今回は、第27話「父のリアリズム」。

      「写実」を作品制作の信条とした父に、ぼくが何を教えられ、どんな影響を受けたかについて記しました。


      自分の息子に対しては、ぼくは何も伝えてあげていないのではないか・・・と、何となくうしろめたい思いでいっぱいです。

       

      ************* 本文全文 **************

       

      第二十七話「父のリアリズム」

       

      ぼくは、結果的に父の跡を継いで、漆の仕事を始めることになったのですが、「父の技を受け継ごう」とか、「いつか父を乗り越えたい」などという思いが、最初にあったわけではありません。むしろ、漆をやり始めた未熟なぼくにとって、父の仕事は完璧に近いものであり、父は、ぼくが何年かかっても追いつけない、技術とセンスを持っているものと感じていました。でも、息子としては面と向かってそれを口に出すことはなく、むしろそう感じていたからこそ、父とは違う方向で作品を作ろうとしたのかもしれません。


      ぼくが美大へ入るため、初めて東京で独り暮らしを始めた時、アパートまで送ってきてくれた父は、部屋に一通の置き手紙をして、村上に帰っていきました。その手紙には、こんなことが書かれていました。


      「美術の学校に入って何をするのか、と今更のように思うかもしれないが、自分自身の心の目で『美しい』と感じることのできる感覚を少しでも養ってほしい。『花は美しい』とは誰もが言う。それがいつの間にか、自分の感覚のような気がして、何が美しいか自分では少しも感じないのに、そう言ってしまうことのないように。花のどこが美しいのか、自分の目と手で確実に感じとることで、初めてそこに美の発見があるのだ。」


      この父の言葉は、作品を作る上での、父の基本的な考え方でもあるとぼくは思います。父は「何となくそれらしきもの」という情緒的な曖昧さを嫌い、対象を自分で徹底的にスケッチすることで、自然の美を確実に自分のものとし、そこに新たな秩序を与えるのです。それは、先人が残した書の古典というものを徹底的に研究することから、自分独自の作品を生み出す書道の世界と、相通じる考え方かもしれません。ぼくは、この「リアリズム」(写実主義)とも呼べるような父の考え方に、強い影響を受けました。


      「工芸」と「書」という二つの分野で、ずっとわが道を歩んできた父。ぼくは漆だけで手いっぱいでしたが、その仕事を四十年続けた今となっても、父の存在は大きく、その言葉は重く響きます。この自然界にある数多くの美を、真摯な目で見つめ、そこから美の本質を紡ぎ出していく、というものづくりの姿勢において、ぼくが学ぶべきことは、まだまだ多くあるなあと、あらためて感じるこの頃です。

       

      平成最後の地蔵祭

      2018.07.24 Tuesday 18:11
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        毎年同じような投稿ですみませんが、今年も地域の季節行事である「地蔵祭」(地蔵さままつり)が、きのう行われました。

         

         

        どしゃ降りだった去年とは打って変わって、今年は雨の心配はないものの、じっとりと汗がにじむほどの猛暑。しかも曜日が月曜に当たってしまって、なかなか準備の人数を集めるのに苦労していました。区議員のぼくは、午前、午後、夜とほとんど終日、地蔵堂に。
        それでも夜になると、少ない人数で一生懸命に鉦をたたく小学生たちや、2年ぶりに出店したおもちゃ屋さん、そしてマルイチ義團による生ビールやモツ煮、玉コンニャクなどの販売で賑わい、本堂では、恒例の曹洞宗のお寺さんによる「大般若経600巻の転読」が行われました。

         

         

         

         

        今年は市内13ヵ寺のお坊さんが集合し、太鼓や鉦の音を合図に、転読が始まると、ありがたい経典で、肩や背中をたたいてもらう人々のざわめきや、転読しながら発するお寺さんの声が混じりあって、一種独特な雰囲気に・・・。

         

         

         

        そして続けて戦没者慰霊の読経を行ったお寺さんが帰られた後は、これも恒例となっている青年團による獅子舞の奉納によって全ての行事を終了しました。

         

         

        動画も3本載せておきます。

         

         

         

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        「潤いと漆 中村謙二展」の作品解説会

        2018.07.22 Sunday 21:14
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          先週末より弥彦の丘美術館で開かれている「潤いと漆 中村謙二展」の最初の作品解説会。とてもわかりやすく、制作のポイントを押さえた、素晴らしい解説でした。


          漆の技法は、なかなか解説を聞かなければわからないことが多いですが、漆の乾きの調整や磨き法、蒟醤(きんま)、蒔絵、螺鈿(らでん)、平文(ひょうもん)といった加飾法まで、惜しげもなく、やり方を披露する中村さんの、穏やかで実直なお人柄に触れながら、膨大な手間と長い年月をかけて磨き上げた技術に、参加者の方々から、思わず深い感動のため息が漏れていました。


          ぼくは近々、新潟日報文化欄に掲載する記事の原稿を、中村さんと美術館から頼まれているので、少なからずプレッシャーを感じながら、聞かせていただいた次第です。


          展覧会は9月2日(日)まで。今後の作品解説会は、7月29日、8月5日、12日、19日、26日の毎週日曜日の午後2時からです。できればぜひ解説を聞きながら、鑑賞されることをお勧めします。

           

           

           

           

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          石州誌連載7月号「うるしうるわし和の暮らし」(七)

          2018.07.17 Tuesday 20:13
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            茶道会員誌「石州」7月号が送られてきました。
            連載「うるしうるわし和の暮らし」の7回目です。


            今回は「漆器の素地」について書きました。
            長くて恐縮ですが、興味ある方は、ご一読ください。
            一応、全文と添付した元のカラー写真を掲載します。


            ***********(本文全文)************


            第六話「漆の素地は木だけじゃないよ」 — 漆を塗れるいろいろなもの —


            先回は、漆が乾くときの条件である「気温と湿度」についてお話ししました。そして、金属に漆を塗る場合の、「高温乾燥法」という特殊な乾かし方についても少し触れました。


            みなさんの中には、「漆って、金属にも塗れるのなら、ほかのどんなものにも塗ることができるのだろうか?」という疑問を持った方もおられたかもしれませんね。きょうは、漆を塗る「素地」について少しお話ししましょう。


            言うまでもないことですが、漆は塗料の一種です。塗料という液体であるなら、どんなものにも塗ることができそうな気がしますね。しかし基本的に、塗った漆がきちんと乾いて塗膜を作り、滅多なことでは剥げない、ということがとても大事ですよね。


            そうしたことを考えると、漆と相性の良い、つまり漆が丈夫な塗膜を作ることのできる素地にも、いくつかの条件が必要になります。そのひとつは、誰にでも直感的にわかると思いますが、つるつるしている面より、ざらざらしている面の方が、漆と素地の接する表面積が単位面積あたり広いので、漆が剥げにくい。そして、漆が素地の中に浸透していくものは、もっと剥げにくいということになりますね。


            そういう点からすると、木をはじめ、布、紙、革、石などは、素地の中に漆が浸透する穴がたくさん開いていて、その点、漆と最も相性の良いものと言えるでしょう。


            そのうち「木」は、漆器の素地として最もポピュラーなもので、板物、挽き物、曲げ物があります。「板物」は「指物」(さしもの)とも呼ばれ、板を貼り合わせ、お膳、重箱、机、角盆、硯箱などがつくられます。「挽き物」(ひきもの)は、ろくろで挽く丸物で、お椀類をはじめ、皿、鉢、丸盆などがあります。「曲げ物」は、木目の通った板を薄く割り、やわらかくし曲げて作るもので、曲げわっぱのお弁当などが有名ですね。漆器の素地に使われる木としては、ヒノキ、ケヤキ、杉、朴、カツラ、トチ、ブナ、栗、桜などがあります。


            「布」は、麻布を型にかぶせ、何枚も漆で重ね貼りして器胎とする「乾漆」(かんしつ)に使われます。仏像のほか、皿や鉢、盆など一般の器もこの方法で作りますが、形を自由に作ることができる反面、とても手間がかかるので、一品ものの作品向きですね。


            「紙」にも同じように、和紙を漆で貼り重ねて素地を作る方法があり、これを「一閑張り」(いっかんばり)と言います。


            「革」としては、なめしていない革を用いて器胎を作り、漆を塗った「漆皮」(しっぴ)があります。そのほか有名なものとしては、鹿のなめし革に、漆で細かい点や型文様をつけて財布やバッグなどを作る「印伝」がありますね。


            つるつるしていて漆が浸透しない「金属」は、普通に乾かすと剥げてしまいがちですが、先回お話しした「高温乾燥法」で、いったん漆を表面に焼き付けてしまえば、あとは楽に漆を塗り重ねていくことができます。これを「金胎(きんたい)漆器」といい、鞍などの馬具や鎧はこの方法で塗られています。


            「ガラス」は、サンドブラストなどで表面を荒らせば、漆が定着します。


            「陶磁器」は、釉薬をかけないでおけば、漆を塗ることができ、これを「陶胎(とうたい)漆器」と言います。ぼくも、花器やカップ類などいくつかのアイテムを制作しています。


            「竹」は、輪切りにしたものに塗ることもできますが、籠やざるのように編んだものに漆を塗るやり方もあり、これを「籃胎(らんたい)漆器」と言います。東南アジアなど南方でよく作られ、軽くて、木のように狂うこともなく、じょうぶなのが利点です。


            「合成樹脂」いわゆる「プラスチック」は、いろいろな種類があり、古くは「ベークライト」と呼ばれるフェノール樹脂が使われ、安価な漆器の代表でした。現在は、ウレタンやABS樹脂などがよく使われていますね。しかし、ウレタン樹脂の上に塗った漆は、木に比べて剥げやすく、耐久性や安全の上でも不安があります。そのほかにも、ポリエステルやアクリル、発泡スチロール、FRP(繊維強化プラスチック)などにも漆を塗ることができます。ぼくもオブジェなど造形作品には、簡単に成形できる発泡スチロールや発泡アクリルなどを使っています。また、木粉を合成樹脂で固めたものも、スプーンやフォークなどの素地として使われています。


            このように、漆はほとんどの素材に塗ることができますが、油分や塩分を含むものだけは、漆が乾かないため、塗ることができません。また当然のことながら、脆いものや狂いやすいものは、素地として不適格です。木の場合は、風通しのよい日陰で何年も乾燥させたものが良材ですが、人工的に乾燥装置を使って乾かすことも行われています。


            さて次回は、こうした素地に漆を塗っていく、その工程についてお話ししましょう。

             

             

             

             

             


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