小さな美のポケット 第7話「技を覚える」

2016.09.05 Monday 20:05
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    村上新聞の連載「小さな美のポケット」の第7話「技を覚える」が、きのう掲載されました。

     

    いま思うと、大学の陶磁工房で、陶芸の基本技「菊練り」を覚えたのが、ぼくの職人に向かう第一歩だったようです。

     

    手で覚えたその感覚は、40年以上経った今も、まだ忘れてません。頭で覚えたことは、つい昨日の事だってもうあやふやなのに・・・。

     

    子どもたちの学校のテストも、しっかりと自分が身につけたと自覚できるような、こういうものが量れると、その子の自信につながるのになあ・・・と思うこの頃です。(*^_^*)

     

    *****(掲載文全文)*******

     

    第七話「技を覚える」

     

    「何かものをつくる仕事をしたい」
    そう思い定めて、美術大学に進むことを決意したぼくでしたが、特に「これをやりたい」と思うものが、最初からあったわけではありません。家業を継いで、漆の仕事をすることも考えないではなかったのですが、漆を学べる大学がきわめて少ないことから、ぼくは運良く合格できた武蔵野美術短期大学の工芸デザイン科の中で、形を勉強するには一番直接的だと思われた陶磁器コースを専攻しました。

     

    本館とは別に建てられた陶磁工房で、初めて与えられた灰色の土。それを、頑丈に作られた木の台の上で、ひたすら練ることから、陶芸の勉強は始まりました。


    土の中にわずかでも気泡があると、高温になる窯の中で膨張し、破裂してしまうので、その気泡を追い出すための独特の練り方があるのです。それは、練った形が菊の花びらのようになることから、「菊練り」と呼ばれていますが、それを先輩たちが器用にやっているのを見ると、その形は菊というよりはむしろアンモナイトの化石のようでした。

     

    菊練りの作業は、そばで見ている分には、さほど難しいようには感じなかったのですが、自分で実際にやってみると、これがなかなかできません。先輩がアドバイスはしてくれるものの、技は人に教えられるものではなくて、最終的には、自分で覚えるしかないのです。

     

    何時間も試行錯誤を繰り返し、いっしょに始めた同期生が、ひとりふたりとできるようになるのを見て焦りながら、毎日それだけを汗だくになってやりました。その結果、五日目に、ぎこちないながらも、やっとのことで菊の花びらの形が作れるようになったのです。それは、ぼくが生まれて初めて、工芸の技をひとつ、マスターすることができた記念すべき瞬間でした。

     

    陶芸に限らず、工芸の勉強というのは、すべてこの連続です。知識を覚えることではなく、時間はかかっても、自分の力で、ひとつひとつの技を、確実に身につけていくこと。「頭で覚えず、手で覚えるのだ。」漆を始めてからも、父に何度もそう言われました。不思議なことに、どんなに難しい作業でも、手で覚えたものは、二度と忘れることはないのです。

     

    いま当時のことを思い出しながら、ぼくはあらためて、工芸の技というものの面白さと奥深さを感じています。

     

    洞庭の秋

    2016.09.01 Thursday 21:02
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      日中の陽差しはまだ強いものの、朝夕の風はひんやりとして、肌に優しく感じられる。


      きょうから9月。渇いたのどをコップいっぱいの水で潤すように、少し湿り気を帯びた秋風は、かさついた心をしっとりと落ち着かせてくれるようだ。


      月初めの日の朝は、寝室にある床の間の掛け軸を取り替えるのが、ぼくの習慣。毎年この月に掛けるのは、父が,かな書道を始める前の二十代の時に書いたという初唐の詩人、張説(ちょうえつ)の七言絶句だ。楷書のきっちりした書体で、若いときの父の性格そのもの。


      詩の意味は、「巴陵(はりょう)の山から一望するのは、洞庭湖の秋の風景。日々に見るのは、湖中に浮かぶ君山(くんざん)の孤峰が、水上に映る姿である。聞くところによると、神仙とは近づくことができないものだというが、神仙へ向かう私の心は、この湖水とともに悠々と満ちている。」


      ぼくは、この最後の「心、湖水に随(したが)いて、ともに悠々」というフレーズがとても気に入っていて、この軸を掛けると特に、ああ、秋が来たなあ、と感じるのだ。

       

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      七夕祭の開始

      2016.08.15 Monday 21:27
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        JUGEMテーマ:地域/ローカル

         

        昨夜15日、早くも「七夕祭」(たなばたまつり)が始まりました。
        町内の一与(いちよ)酒店前にての獅子舞。今年は、同店次女、玲子ちゃんの安産祈願とやら・・・。
        激しいひと雨を浴びましたが、それも上がって、わが町内の若衆は、みな元気いっぱいです。
        台風の動きがちょっと心配だけど、3日間,楽しい祭になりますように。(*^_^*)

         

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        恩師の初盆

        2016.08.13 Saturday 21:35
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          旧村上中学校3年2組のクラスメート女子三傑とともに、須貝義雄先生のお宅におじゃましました。


          今年4月に突然あの世に旅立ってしまわれた先生。
          先生の面影が残る忘れ形見のお嬢さんと、10歳と5歳の男のお孫さんたちが,ぼくらを温かく迎えてくれました。


          お盆は死者が家に戻るのなら、先生も目を細めてこのお孫さんたちを見ておられるのだろうか・・・なんだか先生が、ぼくらのすぐそばに居られるような気がしました。

           

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          小さな美のポケット 第6話「独り暮らし」

          2016.08.04 Thursday 21:05
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            村上新聞の連載「小さな美のポケット」第6話が、7月31日に掲載された。いつもは毎月第1日曜の掲載なのだが、今月は夏休み特大号のため、1週早くなったとのこと。


            第6話のタイトルは「独り暮らし」。


            昭和48年(1973年)、ぼくが大学に入って,初めて親元を離れたときの思い出話。しばらくおつきあい下さるだろうか。「神田川」の世界を知っている方なら、共感していただけるかもしれない。


            レコードをかけたことがないという,今の二十代の人たちにとっては、はるかに遠い昔のことなんだろうな・・・。ぼくも化石化しつつあるのかもしれない。(^^ゞ

             

            ********************************

             

            第六話「独り暮らし」

             

            東京の中央線国分寺駅。そこから北にまっすぐ商店街を歩き、さらに小路を入ってしばらく行ったところに、そのアパートはありました。


            昭和四十八年、美大に行くことになったぼくは、故郷を離れ、ここで初めて独り暮らしを始めることになったのです。


            当時はこの辺にも、古い武蔵野の面影が、まだ色濃く残っていました。「吉金荘」(よしがねそう)という名のついたその古いアパートも、そんなうっそうたる雑木林の陰にあり、二棟の建物のうち、林の側の方は、一日中陽が射さないような、そんなところでした。幸いぼくの部屋は林とは反対側で、二階の角部屋の四畳半。入り口のところに半間ほどの幅の「流し」がついていました。


            トイレは共同。もちろん、お風呂もエアコンもありません。西日がかんかんと当たり、夏は暑くてたまらず、おまけに流しの下は常にゴキブリの巣で、外から帰ると、二、三匹退治してからでないと中に入れないような、そんな部屋でした。そのかわり部屋代は、ひと月七千円という安さだったのです。


            その一階に、同じ大学で油絵を描いている青山君という学生がいて、すぐ友だちになりました。その頃流行っていたフォークグループ「かぐや姫」の「神田川」などを口ずさみながら、洗面器片手に近くのお風呂屋さんへ行った帰り、彼の部屋にあがり込み、一升瓶の二級酒や、安いウイスキーを茶碗で飲みながら、夜を徹して芸術論や恋愛談義に花を咲かせたものです。


            それでもやはり、家族と離れて暮らす寂しさが、時として自分の胸にふっと入りこむことがあって、それはたいてい夕刻、近所の家々に灯(ひ)がともり、台所で食事の支度をする音が聞こえてくる頃でした。


            今までは当たり前すぎて、何とも感じなかったこうした生活の雑音が、ひとりになってはじめて、何かとてもかけがえのないような貴重なものに感じられ、「家」というものの持つ温かさや、人間はそれぞれひとりであっても、いろいろな人とのつながりの中で生きているんだと、実感させられたのでした。


            若いときに親元を離れて経験する独り暮らしは、自分を見つめ,自分を支えてくれる多くのものに気づくための、おとなへの飛行訓練だったのかもしれません。

             


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